「どですかでん」
「どですかでん」
TVが出現し、映画産業が凋落の一歩をたどった60年代、
その完全主義から、多額の製作費を必要とする黒沢映画は、
日本の映画会社から敬遠されました。
すでに、世界的評価を得ていた黒澤明は、
その活躍の舞台をアメリカに移そうとしましたが、
ハリウッドの合理主義と、黒澤明の芸術至上主義は相いれるはずもなく、
その計画はことごとく挫折、
おまけにその病的な完全主義から、クロサワ=狂人説まで出る始末。
(このあたりの事については、後日詳しく書いてみたいと思います。)
実に、前作「赤ひげ」(1965年)から、5年のブランクを経て作られたのが、
この「どですかでん」です。
あらすじは、例によって、ウィキペディアより。
とある郊外の街の貧しい地域。知的障害のある六ちゃんは、毎日近所に出かけては、他人には見えない電車を運転している。内職職人の良太郎は、妻が浮気性なため、子供をたくさん背負っている。穏やかな性格の島さんは、会社の同僚を家に連れてくるが、無愛想な妻の文句を言われて激怒する。乞食の父親は、いつも息子に夢想話を語っている。平さんは物静かで謎の多い人物。街の長老・たんばさんは、家に押し入った泥棒に金を恵む。
ここに暮らす人たちは、変わった人ばかりである。六ちゃんはその中で電車を走らせ、日は暮れてゆく。
You Tubeに、予告編がありましたので、作品の雰囲気がわかってもらえると思います。
皆様は、お気づきの事と思われますが、
父親は出てきますが、例えばその一人は乞食であり、
しかも、自分の息子を食中毒で死なせてしまう始末。
アメリカ進出に失敗した黒澤氏に、どういった心境の変化があったのかはわかりませんが、
この黒澤作品カラー第1作から、
明らかに作風が変わってしまいました。
それを、黒澤作品の新しい展開とみるか、衰退とみるかは、意見が分かれるところですが、
私自身は、ダイナミックな白黒映画時代の方が好きです。
しかし、この映画にも、見るべきところはたくさんあります。
撮影中、黒澤氏は、
「僕は、六ちゃんだよね。」と呟いていたそうですが、
近所の子供たちの嘲笑をものともせずに、
架空の電車を走らせる六ちゃんは、
当時の黒澤氏の置かれていた状況を代弁するものでしょう。
そして、なんとっても武満徹の音楽の美しい事!
一つ一つの細かいエピソードも、味わい深いものですが、
それは、作品をみてください。