タテマエとホンネ5

佐々木孝次


1938年~

研究テーマは、「日本における精神分析療法の可能性」なのだそうで、詳しくはよく存じ上げませんが(→http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BA%B4%A1%B9%CC%DA%B9%A7%BC%A1?kid=162815)、昔、故伊丹十三氏とよく本を出されていたのを、覚えています。この方も、西洋からの輸入思想では解決できない、日本的な問題(対人恐怖症の問題など)にとりくまれているようです。「父親とは何か」(講談社現代新書(絶版?))は、読んでみたい本です。

「ところで、日本人は日本語を使用しながらタテマエとホンネを区別して表現すると、しばしば指摘される。そこで日本語のタテマエとホンネは、はたしていま述べたような意識的な言葉と隠された内容にあたると言えるかどうか考えていきたい。そう言えるなら、日本語で分析療法をしようとするとき、おもに改まった社会的場面で口にされるタテマエを聞いて、うらに隠されているホンネを探ることが重要な意味をもってくるだろう。タテマエを口にする人は、みないつも自分のホンネについてまったく知らないで、心底からタテマエを信じているはずだから。・・・
 しかし、実際はもっと複雑で、タテマエとホンネは、意識と無意識の言葉に対応していないようである。むしろ日本語においてはタテマエとホンネがともに日常の言語活動のなかで公認されていることが、かえって分析の実践を難しくしてると言えるだろう。・・・
 だから、タテマエとホンネの語法に従う人は、じつはその言葉によって何も隠していないのだとさえ言える。」

(「蘇るフロイト思想」 講談社現代新書 昭和62年)