「攻撃者との同一化」という考え方

「攻撃者との同一化」という考え方

私は、精神分析関係の本を読むのが大好きです。
精神分析といえば、
その元祖は20世紀の思想に多大な影響を与えたS.フロイドですが、
その考え方は、現在では科学的には懐疑的な見解を取る人が多いようで、
最先端の知識を身に着けておられる方からすれば、
時代遅れの考え方なのかもしれません。
しかし、人間の深い心理を知る上では、
いまなお大変有効な手掛かりになると私は思っています。
その精神分析の重要な概念のひとつに、
「攻撃者との同一化」と言うのがあります。
これは、S.フロイドではなく、
その娘さんにあたるアンナ・フロイド(1895~1982)が提唱した考え方です。
 

 
最近は、調べ物をするときはなんでもネットに依存する癖がついているので、
この「攻撃者との同一化」を、さっそく検索してみたのですが、
案外出てくるものが少ない。
圧倒的に多かったのは、
学校におけるいじめの心理を説明するのに引用されたものでした。
アンナ・フロイドは、児童心理学に大きな足跡を残した人なのだそうなので、
あるいは関係があるのかもしれませんが、
ここはこの考え方を説明するのに、私のご贔屓の岸田秀氏が、
ニーチェについて書いた文章を引用させていただきます。
 
それはさておき、ニーチェの著作には、フロイドが多年にわたる臨床的経験と苦しい思索の果てにやっと辿りついた洞察があちこちに、きらめく直観のように散りばめられていることは事実である。今ちょっと手元にある『善悪の彼岸』をひもといてみると次のような文章が見える。。。最後に『怪物と戦う者は、自分もそのため怪物とならないように用心するがよい』。これは、フロイドではないがその娘アンナ・フロイドの言う攻撃者との同一視の機制を指していると解される。幽霊が恐ろしい子どもがその恐怖から逃れるために自ら幽霊のまねをするとか、争っている敵同士がそのうちたがいに似てくるなどの場合に働いているのがこの機制である。(「フロイドとニーチェ」『二番煎じ ものぐさ精神分析』(青土社)より 赤字は猫さん)
 
ネットにも、このような文章がありました。→
 
1,かって被害者であった者が何故加害者になるのか?
*精神分析学者アンナ・フロイトによれば、人間の心の中には、自我の防衛機能のひとつとして、攻撃者との同一視、つまり、被害者が自分を攻撃した人と自分を同一視するという心理的カニズムが存在するという。つまり、自分を虐待した母親と自分を同一視する事によって加害者としての罪悪感から逃れようとする、なぜなら、「子供の頃親は自分に取って正義であった。だからその母親にしつけられた自分が間違いであるはずがない」と言う思いである。暴力を振るっておいて、その思いを端的に表したのが「子供にしつけをしているんだ?」という言い訳がこれに当たるであろう。
 
まあ、単純に言えば、「自分が恐怖の対象(攻撃者)と同じになることによって、攻撃されないようになるという心理的カニズム」と云う事でしょうね。
 
話は飛躍しますが、ブロ友さんのmoさんのブログで、
moさんが「あなたの映画ベスト5は何か?」と尋ねられていたので、
私は、迷わずベスト1としてゴッドファーザーPARTⅡ」を選びました。
 

 
私がこの映画が大好きなのは、
最初はアメリカ社会のマイノリティとして、差別される側にあったイタリア系移民が、
その勢力を伸ばしていく過程において、
自分たちが残酷な迫害者に変わっていく矛盾を
見事に描き出していると思うからです。
百凡の映画が、「マイノリティ」=「弱者」=「善」という図式で捉えることが多いのとは、大いに異なった視点です。
先日、このブログで取り上げたマイケル・ジャクソンの肌が、
だんだん白くなっていったのも(笑)、この「攻撃者との同一化」をいう概念で説明できるかもしれません。

私が、こういう事を書いているのには、
近年の中国と北朝鮮のことが念頭にあります。
最近の中国と北朝鮮の事件と、
それに対する日本人の皆様のブログでの反応を読んでみますと、
(少ない見聞の限りですが、)
この両国を「野蛮な国だ。」とか決めつけるそういった類のコメントが多い。
北朝鮮の現在の体制は、まさに異常としか言えないのは、
私も大いに共感するところです。
(あの国を、「労働者の天国」と宣伝した左翼知識人の責任はどうなるんでしょうか?)
でも、あれって、戦前のファシズムの時代の日本に酷似していませんか?
 
中国政府の少数民族への迫害や、日本との領土争いにおける強硬な態度にも、
20世紀までの日本をはじめとする列強諸国の侵略の辛い歴史の記憶が、
大きく影響を与えていることは確かです。
だからと言って、人権を侵害したり、
少数民族を迫害したりしたりしていいと言っているわけではありませんが、
長い侵略に苦しめられた彼らの歴史を考えると、
「攻撃者との同一化」という考え方が、
その心理を理解する助けになるのでは?と思い、
書いてみました。
 
例によって、少々アブナイねたですが、
ご感想、ご意見があれば、コメントしてくださいませ。