「どん底」 黒澤明監督作品

どん底」 黒澤明監督作品


1957年
 
黒澤明監督が、ゴーリキイの同名戯曲に材をとり、脚本の小国英雄とともに舞台を江戸の場末の棟割り長屋に移し社会の底辺に生きる人々の人生模様をユーモアも忘れずに描いた辛口群像劇。物語のほとんどが長屋の中で展開されていながら観客を飽きさせない脚本に感服。入念なリハーサルを繰り返し、本番では複数カメラで一気に撮り上げ極限の臨場感(と緊張感)を演出。見どころはなんといっても、長屋の皆でラップ調(?)の歌を歌うシーンか、お見事。
<allcinema>
 
黒澤映画と言えば、
膨大な製作費をかけたアクション大作と言う先入観を持つやもしれませんが、
こういう隠れた「こじんまりした」佳作もあるのであります。
ロシアの文豪マクシム・ゴーリキー(1868~1936)の戯曲が
元になっているそうですが、私は、読んだことがありません。
名作「蜘蛛巣城」(1957年)において、
シェークスピアマクベスを大胆に翻案したのと違って、
この映画においては、殆ど原作に忠実に演出されているそうです。
 


 
 
allcinemaでは、
 
「物語のほとんどが長屋の中で展開されていながら観客を飽きさせない脚本に感服」
 
とありますが、私も同感いたします。
それは何より、出演した俳優さんたちの卓越した演技に魅了されるからで、
(特に、左卜全さんがいいですね。)
先日観た「パシフィック・リム」のような
CGだよりのアクションシーンばかりの映画とは大違いです。
まだ、敗戦の記憶冷めやらぬ時代ですので、
こういう役柄に、役者として入っていきやすいんでしょうか。
ただ、みんな貧しくて餓えているはずなのに、
役者さんの顔色が矢鱈にいいのはご愛嬌ですが。
黒澤明「純粋なリアリズム」と呼んだ、
精緻を極める江戸時代の長屋のセットも、本当に見事でした。
ジャパニーズ・ラップのシーンがyou tubeにありましたので、
貼り付けておきます。

 
 
 
「どですかでん」(1970年)もそうでしたが、
黒澤明は、極貧を描くのがお好きならしい。
自身が売れない画家の時代は、大いに貧乏したらしいので、
その時代を思い出しているのかもしれませんが、
「弱者」=「善人」では必ずしもない事をよく知っている。
その辺が、お坊ちゃんインテリの「空想社会主義者とは一線を画するところで、
私が、この方を尊敬するゆえんでもあります。
大味なハリウッド映画に飽きた方は、一度お試しあれ。
 






追記:この時代の日本映画を観ていると、
台詞が聞き取りにくい事が多いですよね。
こういう時は、DVDの日本語字幕をONにすると大変好都合です。
台詞の細かいニュアンスも、よく判りますよ。